そこのみにて光り輝く

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環境情報学部4年

對馬好秀

 

 

人間嫌なことがあると心がどっと重くなる。嫌な未来が視野に入れば明日がこなければいいなんてことをふと思うものだ。その嫌なことがひとつでなく2つ3つとあれば、心の重みは簡単には外れない。しかし、逆に言えばこの重りがひとつでも取れれば心は昔よりも前を向くようになるものだ。

「そこのみにて光り輝く」
この作品はその心の重みを嫌という程負わされる。正直読んでいて気分が良くなる作品ではない。「そこのみにて光り輝く」の「そこ」とは「底」という捉え方もできるのかということに読んでいて気がついた。

造船会社を退職した佐藤達夫とバラックにすむ大城千夏。この話はこの2人の底で生きる現実の中で生まれる愛の物語である。
毎日を生き抜くことで必死だった千夏は達夫と出会って愛に触れ始める。そうして徐々に精神的な余裕をもった千夏の心は少しずつ少しずつではあるが心の重みが外れて行く。

大城家を支えるために千夏は手段を選べる状況になかった。千夏もいつの間にかそのどん底の生活に慣れつつあった。そこから彼女の目を覚まさせ女として男と恋に落ちることを思い出させたのが達夫である
。人は人を苦しめることも救うこともできてしまう。「愛」という大きなテーマをこの心の重りに引き摺り込まれた「底」で感じ、その愛を普通の男と女として育んで行こうとする2人の姿から、幸せとは自分で掴み取り、自分で育てて行くものなのだと教えられた。
この心の重りがひとつひとつとれて行くのがまるで海底から光が漏れる水面へ浮かんで行くような感覚を覚えるほどに軽さを感じる。重い話だがその重さを感じれるからこそそこで乗り越えて手に入れた光を感じることができる。

読む前と読んだ後ではタイトルの感じ方が全く違う作品だった。

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