「バケモノの子」〜人間の子〜
ぼくには父がいる。小さな頃からぼくを見守ってここまで育ててくれた、誰にも変えることのできない父親が、1人だけいる。けれど、もし父が本当の親ではないと知ったら、ぼくはこの関係を続けることはできないだろう。今までと同じように関わろうとしても、心のどこかで違和感を感じながら生活をすることになるのだろう。では、最初から自分の父ではないと知っていながらも、父の代わりを頼むことができる人が現れたら、その関係性はどうなのだろうか。普通の父のようになるのだろうか。
想像してほしい。例えば、自分が子供の時に、親が嫌いで、家族が嫌いで、どうしもようもなくて家を出た。夜も更け、行く宛もなく、途方に暮れていた時、助けの声をかけてきた主がバケモノだったとしても、あなたはついていくだろうか。そしてたどり着いた異次元に、バケモノしか溢れていなかったとしても、あなたはその場に留まるだろうか。
主人公の「九太」は、未知の世界への恐怖よりも、日常への嫌悪感や好奇心が上回ったのだ。9歳でバケモノの世界に迷い込んだ彼は、戦うバケモノ「熊鉄(くまてつ)」に弟子として迎えられる。それから8年をかけて1番弟子となった九太は、思いがけず人間世界に引き戻されることで、記憶の隅に押しのけていた人間としての自分に気がつき、さらに生き別れていた父に再会することでバケモノと人間の間で心が揺れる。
映画「バケモノの子」は、戦闘物語、冒険物語、家族物語、など様々な受け取り方ができる。人によって受け取り方が様々であるのは当然だが、同じ人物が再度作品を見たとしても、その時の心理状況によって受け取り方は大きく変わってくるだろう。作中に描かれた世界観に身を乗り入れて、自分独自の「バケモノの子」を楽しんでもらいたい。