『空気人形』
『空気人形』
福田周平
『そして父になる』で第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞して以来、日本を代表する映画監督として認知度を上げ、現在上映中の『海街diary』もカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品されるなど、世界的にも名を広めつつある人物。
是枝裕和。彼の作品を愛する人々からよく耳にする言葉「是枝ワールド」。一体どんな世界なのか。上記の二作品を鑑賞した私が「是枝ワールド」に一歩踏み入れんと選んだ作品が『空気人形』である。
板尾創路が演じるのは、空気人形を溺愛する変態フリーターの秀雄。その秀雄に、いわば飼われている状態の空気人形(のぞみ)を演じるのが韓国の女優、ペ・ドゥナ。物語は、この空気人形=のぞみに心が宿ることから始まる。
この作品、ベッドシーンが多い。女優ペ・ドゥナのヌードが観たい方はぜひ。とオススメしたいところだが、不思議なことに、ペ・ドゥナが人間に見えない。裸の筈なのに人間だと思えない。だから裸でも全然嬉しくない。けど、この作品の凄さはそこにある。劇中どのシーンを切り取っても、のぞみが人間に見えるシーンがない。演じているのは人間なのに。
「私は、性欲処理の代用品」のぞみが自身にそうつぶやくが、のぞみが人間と生活を送る度に気づくのは、自身が人形であるという事実。「限りなく人間に近い人形」という繊細な描写であったが、ペ・ドゥナの演技力と、是枝監督の描く世界観により、人間と人形の違いを見失うことはなかった。
心を持つ筈の無いオモチャ。そんなオモチャに心を与え、心を持ったオモチャ視点で色んな人間を捉えている本作だが、その設定が「心をもつことは、せつないことでした」という本作のキャッチフレーズを儚く表現できていた。