海街コンソメ
<人と空間の魅力をシンプルに伝えてくれる作品>
鎌倉で暮らす三姉妹の元に、自分たちが幼い頃に離婚して家を出て行った父の訃報が届く。父の葬儀にて三姉妹は再婚相手の娘、義理の妹である“すず”と出会う。気丈だが感情を見せないすずを心配し、三姉妹の長女“幸”は彼女に、鎌倉で自分たち三姉妹と暮らす提案をする。一瞬戸惑うもすずはそれを快諾し、三姉妹と一人の“四姉妹としての共同生活”が始まるのであった。
『海街diary』は吉田秋生による漫画作品を原作とする映画である。先に書いたあらすじからも分かるように、鎌倉を舞台とし、複雑な家庭事情を抱えた四姉妹を中心とするドキュメンタリー作品となっている。この作品は例えて言うなら“三ツ星レストランで振舞われるコンソメスープ”といったところだろうか。作品の内容自体は至ってシンプルだが、その分、役者とその演じている役、舞台である鎌倉の魅力が素直に伝わってくるのだ。
四姉妹を演じるのは、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという昨今の日本テレビ史、映画史を語る上で外せない女優陣ばかりである。となると、この作品の魅力は豪華な女優陣の共演だと大抵の人は捉えるだろう。無論それも間違いではない。だが、私にはそれよりも、彼女たちが“ありふれた姉妹”を演じることこそ、この作品の魅力の真髄だと言いたい。また、リリー・フランキー、樹木希林、大竹しのぶ、堤真一など、彼女たちをとりまく配役にもかなり力が入った作品である。いずれにせよ、役柄の素朴さが、余計に役者の演技、あるいは役者そのものの魅力を浮き彫りにしているのがこの作品の趣深いところである。
そして、この作品では鎌倉の歴史と自然を感じさせる風景描写が多く収められている。その魅力のどれもが、余計な装飾の少なさ、一緒に写す人間の少なさで強調されている。最後の四姉妹が海沿いを歩くシーンでは、定点ではなく、人の動き、波の音に合わせてカメラを微妙に揺らしながらの撮影が為されているなど、舞台である鎌倉、空間の魅力をシンプルかつ最大限伝える工夫もこの作品の魅力である。
このように、シンプルかつ繊細な魅力が数多くつまった“三ツ星レストランのコンソメスープ”。是非多くの方にご賞味いただきたい。また、この作品の原作はまだ完結しておらず、個人的には映画の続編にも期待を寄せている次第である。