文句を言う人、その流儀

 2014年12月2日、とある人気商品が販売停止の危機に追い込まれた日である。
とある人気商品とは、まるか食品株式会社より販売されている「ペヤングソース焼きそば」である。
1975年3月発売開始という古い歴史と、焼きそばだけで累計19種という豊富なバリエーション、他商品より比較的安価でシンプルな味から多くの人に愛されたこの商品は、1件のクレームによって約半年間市場からその姿を消すことになったのだ。
 その内容は「商品の中にゴキブリが混入していた」というものだった。ゴキブリが混入していたらクレームをつけるのは当然である。私がこの件でどうしても引っかかるのは、クレームをつけた人間が、先ず問い合わせをせずにSNS上でその事実を公にしたということである。かつての日本にあった、武士道精神にならった「文句を言う流儀」がそこには微塵も感じられないのだ。

 SNSが発達していなかった頃、企業が何かトラブルを起こせば、被害を受けた人間が先ず企業に直接問い合わせ、次にその対応があり、対応の内容次第でクレームをつけた人がマスメディアに改めて事実と企業の不正(不誠実)を訴えるというのが通例であった。まだ「波風を立てない」「関係者が面と向かってことを運ぶ」という社会風土が生きていた。
ところがSNSが発達してみると、炎上商法などというワードが出てくるほどに「波風を立てること」が有意義にとられがちな社会になってしまった。確に、SNSに投稿することは企業の不正暴露を訴求するには十分に効果的であるし、共感者を募ることで被害者の権利も守られ易い。だが反対に、クレーマーと企業、二者間の問題を誇張して企業に過度な責任の追及をすることになりかねない。そうなれば被害者はその企業を愛好していた消費者、関係者にとっての加害者になりうる。これでは悪い意味での喧嘩両成敗ではないか。今回の「ペヤングソース焼きそばゴキブリ混入事件」は、まさにその象徴といえる。
 今年6月8日「ペヤングソース焼きそば」は帰ってきた。その人気ぶりから生産が追いつかず、関東地区以外での販売は延期になっている。今後も流儀なきクレームが横行し、今回のような辻斬りが増えてしまうのか。私は憂鬱である。

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