第4回課題
「題名未定」 木下 恭順
「今日もババアども相手に頑張るか」
舞台袖で一人の男がつぶやいた。
「続きまして登場致しますは 演歌界のプリンス 星空 光!」
「全国の奥様の心を鷲摑み! 掴みに掴んでオリコンチャート第一位!」
「それでは歌って頂きましょう! 「ヒカルのポンポコ節」ですどうぞ!」
「キャーッ!ギャーッ!」
30代から100歳まで女性たちが、『ヒカル』と書かれたきらびやかな内輪を満面の笑みで振っている。
音楽が流れる。
「ポン、ポンポン、ポンポコ」
キラキラしたスーツを着たヒカルが歌いながら現れた。
「ヒカルーッ!」
女性たちが間の手を入れる。
「か〜ぜ〜が吹き吹き 花が散る〜 雨に濡れ濡れ 花が散る〜」
「ヒッカッルゥー!」
車椅子の老婆も立ち上がって絶叫する。
「ポン、ポンポン、ポンポコ」
ヒカルが腕を左右に振り、腰をクネクネさせる。それに合わせて女性たちも腰をクネクネさせる。
自分の動きに合わせて腰をクネらせる女性たちを見て、ヒカルの頭に走馬灯のように今までの人生が駆け巡った。
芸名:星空 光 本名:須田 健一 健康が一番大切という両親の願いが込められた名前である。漁師の子供として生まれ、幼少期は女の子と間違われる程の端正な顔立ちで、地元の人々に可愛がられながら育った。その見た目から学生時代は常に人気者であり、芸能界に憧れを持つこととなる。
高校卒業後、ロック歌手を目指し上京、オーディションを受け弱小事務所から「ヒカル☆スターダスト」としてデビューする。デビュー曲はスマッシュヒットを跳ばすがその後は鳴かず飛ばず、事務所の倒産とともに芸能界を撤退する。ホストクラブで生計を立てていたところをスカウトに拾われ、演歌の名門・北方ファミリーに入門することとなる。
北方ファミリーは演歌界の大御所・北方三平を頂点とした演歌の世界で絶大な影響力を持つ組織である。北方三平、通称:「ペイちゃん」として国民的人気を誇り紅白歌合戦に通算42回出場し大トリを12回飾っている。さらには組織のナンバー2には山形譲一、ナンバー3には小金山昇太を携え盤石の体制をであった。