『移動祝祭日』を読んで

 ヘミングウェイが著したこの『移動祝祭日』は、著者が1961年に自殺した後、発表された。ヘミングウェイは1954年にノーベル文学賞を受賞し、『老人と海』や『誰がために鐘は鳴る』などでよく知られる20世紀を代表する作家の1人である。

 遺作だが、舞台は1920年代のパリ。20代の若かりし頃を回顧して書かれたようだ。一つの章が短く、当時のパリでの日常会話や出来事が描かれている。

 印象的だったのは、「ユヌ・ジェネラシオン・ベルデュ」に出てくる『あなたたちはみんな自堕落な世代(ロストジェネレーション)なのよ』というスタイン夫人の台詞だ。「ロストジェネレーション」、「失われた世代」といえば、私にとっては1990年代、バブル崩壊後に生まれた現代の20代が思い浮かべられる。しかし、ここでの「ロストジェネレーション」は1920年代から1930年代にアメリカで活躍した小説家たちを指しているそうだ。「ロストジェネレーション」と広く言われるきっかけとなったのは、このガードルート・スタインの言葉なのだとか。第1次世界大戦という大きな戦争を越え、様々なものを失った彼らはまさしく「ロストジェネレーション」だろう。バブルという経済的に輝かしい時代を失って生まれた、現代の「ロストジェネレーション」にもぜひ読んでほしいと思った。

 他に個人的に興味を持ったのは、各章ごとに結構な注釈があることだ。しかも、その注釈が会話に出てくる「あたしたち」に付けられていたりする。この本に出てくるのは、日々のごく自然な会話。その為、ヘミングウェイは元から知っていても読者にはわからないであろうところに注釈が入れられているのだ。読者への配慮が感じられた。もう一つ気になったのは、最終ページにある年表。ここには妻と結婚し、パリに移住してからどのように過ごしたかが記されている。私が年表に気づいたのは読後であったが、その内容を見てから本文を読むとまた面白そうだ。

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