誕生日
「関東地方の今日の天気予報は曇り。ですが、運が良ければ夜9時からふたご座流星群がみえるかもしません。それでは…」
意味もなくつけたテレビからはいつも通りの、陽気な声が聞こえてくる。出ている人は違うはずなのになぜ皆同じように聞こえるのか晴子は不思議だった。元気が奪われていく気がする。なぜ寝起きからこんなに疲れさせてくるのか、ぶつぶつ文句を言うが、テレビをつけたのは自分だった。
今日は12月9日金曜日。本当は会社だったけど、休みを取って、本当は大学から5年付き合った雄介と二泊三日の旅行に行く予定だった。今日が私の誕生日だから。でも、最近は雄介の方が仕事で忙しく出張が入ってしまい、それもキャンセル…。
「いまは大切な時期だから」
電話越しの合言葉のようになってきたこの言葉を晴子は心の中で何度も言い聞かせた。
せっかくだから二度寝しよう。
テレビを付けっ放しのまま、うとうとし始めるとまた深い眠りについてしまった。
ピンポーン
目を覚ますとチャイムが鳴り、すっかり空は暗くなっていた。
「宅配です」
玄関を開けるとそこにはいつもの宅配のおじさんが寒い中うっすらと汗ばみながら立っていた。お礼を言ってドアを閉める。
やけにデカイそのダンボールは頼んだ覚えのないものだった。
「届いた?」という雄介からのラインは多分このことだろう。
中にはどデカイ最新式のドローンが入っていた。
これアホみたいにわ〜って手振って空撮するんでしょ、やりたーいとかてきとうなことをド○キで言ってたことを覚えてたのだろうか。
「でもこんな狭い家で飛ばせないじゃんね」
晴子の心の声が漏れる。
最新式のピカピカのそれは触りたいでしょ?と言わんばかりにコチラをあどけない子犬のようにみてくる。
晴子はため息をつきながら、ただ、「届いたよ」とだけ雄介に送った。
「まだ予定空いてる?今日の夜かなり遅くなっちゃいそうだけど、帰れるみたい。星見にドライブ行きながら、ドローンも撮りに行かない?」
こんなので舞い上がってしまう自分は子供だなと思い、晴子はいそいそと顔を洗いにいくのだった。