誕生日

月曜日、僕の姉貴が突然自殺した。

そして次の日、姉貴は蘇った。怖かったので僕の手で殺しておいた。

以来、姉貴は毎朝蘇るようになってきたから、日常はこれまでと全く違うものになった――たとえば、家事は僕一人で全部こなすようになっていった。もともと引きこもりだった僕の生活は、この「ルーチン」の追加によってむしろ規則的にすらなりつつある。

水曜日も僕は姉貴を殺した。成り行きで刃物を使ってしまい、僕はその日の洗濯を諦めた。自分の服にこびりついた血液を洗い流すのは面倒だし、一日放置すれば勝手に消滅する。無駄な労力はかけたくない。

リビングに姉貴の死体を転がしたまま、僕はシャワーを浴びて、服を着替える。綺麗になった状態で一度リビングへ引き返し、姉貴の方を見ないようにしながら台所の棚を開ける。「完全食」のパックとコップ、そしてティースプーンを手にとって、僕は部屋へと引き返す。自室にはミネラルウォーターのボトルが置いてあるため、血みどろの死体を見ずに「食事」ができるようになる。

その日は部屋に閉じこもり、再生数が2桁しかないYouTuberの動画を垂れ流していた。あくびが出るほどつまらなかったのに、結局夜は寝付けない。

木曜日になって、今朝は姉貴の部屋に呼び出された。何か会話をする前に冷房のリモコンで殴りかかったため、どうして呼ばれたのかは分からない。寝起きで急に運動したせいか、姉貴の死後僕は激しくむせた。咳が止まらなくて、一度姉貴の部屋を飛び出す。

リビングに行って、意味もなく窓を開け放つと、絶好の洗濯日和であることが分かった。姉貴が自室で死んでいるおかげで、今日は部屋を自由に行き来できる。ついでに掃除もしてしまおう。

姉貴の部屋の掃除はもちろんしないし、ここ三ヶ月は彼女の服を洗濯した覚えもない。何もしなくたって彼女の部屋は不思議と綺麗で、衣服も問題ないらしいのだ。一度気になって彼女の箪笥を開けてみると、姉貴の衣服は一切使われた形跡がなく、綺麗にたたんでしまってある。

この件に関しては、あまり深く考えないようにした。

金曜日。姉貴はまた僕を部屋に呼び出し、僕は全く同じ相棒を使って彼女を殺した。こんな使い方したらリモコンが壊れてしまうんじゃないかと思い、試しに電源を入れてみる。冷房は問題なく作動し、僕はまた咳き込んだ。どことなく不安になり、僕は部屋を出る。

姉貴は一体、どうして僕を部屋に呼び出すのだろう。そう思ったのは、土曜日にテニスラケットで彼女を撲殺した後のこと。彼女の部屋は、幸い異臭もしなかったから、僕は室内をしばらく探索することにした。

といっても、その「理由」はすぐに見つかってしまう。彼女の机の引き出しを無造作に引くと、中にはきれいにラッピングされた小包がしまってあった。

❇︎

どうせ、わたしが死んだ日にもどこかで誰かが生まれている。そう思えば、命の重みなんてたかが知れている。

そう考えた時、ふと今週の木曜日は弟の誕生日であることを思い出す。せっかくだから、命日はその日に合わせようか。誕生日プレゼントとか用意して、彼の成人を祝ってから最後の瞬間を迎えてみようか。

――まあ、いいや。めんどくさいし。

先延ばしにするべきではない気がして、私はロープに首を通す。

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