誰も知らない小さな事件
羽田から約2時間。福岡空港へ降り立つと、私と妹を待ち受けていたのは凍てつくような寒さだった。白い吐息が漏れる。
この日の福岡は局地的な寒さで、小さなひょうが降ってくるほどだった。あまりの寒さに薄着で来てしまったことを悔やみながら、ホテルへと足早に歩いた。私と妹の貧乏旅行はマンションを買い上げて、それを改装したタイプのホテルで、駅からは徒歩15分と遠いものの部屋は広く清潔でキッチンまでついているようなところだった。道を間違えて遠回りをした妹と小競り合いしているうちに着くと、
みゃお。
看板娘のようにホテルの玄関の前で鳴く猫がいた。真っ白に輝くその猫は寒いから入れくれ〜とばかりにスリスリと顔をジーンズに擦り付ける。
どうしたの?どこから来たの?と思わず聞いてしまう。
首輪もなく耳もカットされておらず(避妊手術をしていること)、明らかに野良猫だった。実は野良猫を見るのは初めてで、なんでこんな寒いところに?一瞬パニックになった。とりあえずホテルの中には入れられないからダンボールの中にホッカイロを入れて毛布を敷き詰めた。ご飯をよく食べ、よく遊ぶ。野良猫なのに人への警戒があまりなく、撫でるとゴロゴロ行ってウトウトし始める彼女に私と妹はもうメロメロだった。
「うちくるかい?」
どっちが先にそう言ったかはもう覚えていない。もう夜も深く午前2時ごろだったと思う。猫は今の自由が好きだと思ってるかもしれない。でも、音が鳴るたびに警戒し、眠いのにすぐ目が覚めてしまう。寒さに震える彼女を見るといてもたってもいられなかった。家猫は10年以上生きるが、野良猫は5年と言われている。喧嘩などで病気にかかりやすく、ダンボールの中で寝ようとする彼女の耳まわりは薄く禿げて、小さなかさぶたがあった。
「明日もいたら、病院連れてって家で飼わない?」
「そうだね。もしかしたら来ないかもしれないし」
そんな期待と不安が入り混じる次の日。私たちは観光のことよりも猫のことで頭がいっぱいだった。来るかなと。だから早めに帰って、暖かいダンボールを設置すると午後10時ごろ彼女はダンボールの中にちょこんと座ってまた姿を現した。
人間が飼うとか飼わないとか考える時点で勝手かもしれない。でも、この世に生まれ落とされた時点でどんな命でも幸せになる権利があると思う。だってどんな環境に生まれるかなんて選べないのだから。
でも、私が絶対幸せにする!
12月7日、私たちにとって早めのクリスマス。
一緒に幸せになろうね!