ムンク展

 そして、ムンクによって“死”が描かれる。

 ムンクの最愛の姉ソフィアは、15歳で肺結核のため病死している。彼女がモデルに描かれているのは、1894年の『病める子』の作品。絵画の中では、憔悴した様子の子供が、虚ろに空を見つめている。まぶたは開ききらず、病気のために髪が抜け落ちている。残っている髪は細く、生気なくちぢれていて、それは、土から引き抜かれたままに乾いて死んでいく植物を思わせる。

 20世紀初頭のムンクの作品では、“死”が、愛との対比として描かれる。『森の吸血鬼』では、女性の吸血鬼と抱擁する男性がモチーフとなっている。吸血鬼は男性を抱きこみながら、首筋にくちもとを当て、血を吸っている。男性は、“死”を受けいれているようだ。男性の血が女性の体内へと、静かに流れ入っているのが分かる。ただ女性の赤髪だけが、血のように男性の頭部に滴っている。

 “死”と結びつく概念―不安や魂や生命の苦しみに、ムンクは向かいつづける。

 1896年『メランコリー』では線の歪んだ海岸背景とともに鬱屈した感情が絵画の全体に表され、1910年『太陽』では、“魂の内なるイメージ”として描く太陽とそれに照らされるフィヨルドの海が、悠々たる魂の雄大さとして堂々描かれ、1910年『叫び』では、“自然をつらぬく叫びのようなもの”に絵画の主人公としてムンク自身が耳を塞ぎ、苦しみぬく。

「ムンク展」は、上野東京都美術館で、2019年1月20日(日)まで開催される。

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