『Mommy』
『Mommy』
監督 グザヴィエ・ドラン
ぶつかり合う剥き出しの感情に、思わず自分も叫びだしたくなった。
日々の生活の中、マルチ商法ですら追いつかない勢いで無数の感情が生まれ、それらが私たちを取り巻く。そんな感情が蠢く渦中、自分の中にある真意に、私たちは必ず目を瞑る。人には見せまいとする。なかったことにする。だが、なぜ目を瞑る必要があるのか。その感情こそが自分であるはずだ。映画「Mommy」からは、グザヴィエ・ドランのそんな力強い想いを感じた。
S-14法案、発達障がい児の親が経済的困窮や精神的・身体的な危機に陥った場合、法的手続きを経ずに養育を放棄し、施設に入院させる権利を保障するという新たな法律。物語は、この仮想の法律の説明から始まる。母親であるダイアン・デュプレ(アンヌ・ドルヴァル)とADHD(多動性障害)を患う息子、スティーブ・デュプレ(アントワン=オリヴィエ・ピロン)の運命は、この法律によって大きく左右される。
障がいを持つ息子と母親、そんな単純な括りでこの作品を形容することはできない。一見、よくあるヒューマンドラマと捉えてしまいそうになるこの作品だが、そうはさせない。監督であるドランの手法と彼にしか目を向けることができない感情に釘付けになった。
劇中で描かれる人物は一見、私たちの日常からかけ離れた世界に存在しているように思える。そのくらいにシビアで、繊細で、私たちの現実からは見えづらい。だが鑑賞中の私は、間違いなく彼らと同じ世界に生き、彼らと同じ感情をどこかで抱いていた。自分が目を瞑ってきた、消し去ろうとしていた感情がそこには存在していた。そう感じるのはおそらく、私だけではないはずだ。私は、自分が埋めてしまった、目を向けないようにしてきた感情をこの映画に掘り起こされた。
この映画でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞したドランは、こう語る。
「僕と同世代のみんなへ
誰もが自由に表現する権利があるにも関わらず、それを邪魔する人たちも
いる。でも、決して諦めないで下さい。世界は変わるのです。
僕がここに立てたのだから。」
福田周平