『昭和の怪物 七つの謎』
戦争を知らないぼくたちは、とくに男の子は、それにロマンを感じてしまう。おそらく歪んでいるだろうそのロマンが、戦争という“政治的選択肢”をそれ以上のものにして、日本国は暴走した。
『飛行機は飛行機が空を飛んでいるのではない、人が飛んでいるのだ。精神が動かしているのだ。』
かっこいい。東条英機の、この言葉。
上記の言葉が引用されているのは、保坂正康の『昭和の怪物 七つの謎』より、である。
保坂氏は40年にわたる近現代史研究で、のべ4000人から証言を得てきたという。同書は、保坂氏の集めた貴重な証言と研究を、筆者の見解を交えながら、“七つの謎”としてまとめたものになる。
七つの章にはそれぞれ“主人公”が設定されている。冒頭に挙げた東条英機をはじめ、石原莞爾、犬養毅、吉田茂など、名だたる人物が続く。
そしてぼくは章を追うごとに、どんな偉人も軍人も総理大臣も、ただの人間ひとりなのだと感じる。ある個性を持って、信念に従った、人間ひとり。
筆者の保坂氏によっても、そして教育においても、日本の昭和人物史はネガティブに語られる。それは“戦争”というあまりにも大きな傷を受け、その記憶を持った人たちが、それをなんとしてでも繰り返さないように努力をした証である。彼らにとって、“戦争”とは現実であり、トラウマたる自らの体験である。
しかし、”戦争”の捉え方は時代とともに変わっていく。あえて言うなら、ぼくたち平成の世代にとっては、“戦争”はフィクションである。そしてその平成さえ、もう終わる。
平成生まれのぼくは、フィクションの中の“東条英機”のことを「かっこいい」と、このコラムに評してしまう。
『昭和の怪物 七つの謎』に一貫してみられるのは、暴力的な“怪物”たちへの完全な「拒絶」である。しかしそれは、もう、古いのでは? ぼくたちが暴力を避けるために必要なのは、“怪物”たちへの「共感」だろう。
あなたがどのような感情を抱くにせよ、生々しく、そして緻密に昭和史に触れることのできるこの本は一読を薦められる一冊である。
「かっこよくて、間違っている」とするぼくに対して、あなたは“怪物”たちをどう評するだろうか。