次の命をはかるもの

14歳で命を失ったとしたら、人はもう一度生きたいと思うのだろうか。戦時であり、銃弾の狭間に産み落とされるとわかっていても、人はまた生きたいと思えるのだろうか。

森博嗣の著書「スカイクロラ」は、原作の持つ薄暗い生への執着はそのままに、実写的なアニメ描写を得意とする押井守によって映像化された。元工学博士の森は徹底した調査に基づく執筆を行う。本作品は、不老の身体を持って軍事企業に生み出された主人公カンナミが、人造人間(キルドレ)として生きながら普通の人間として生きようとする葛藤が描かれている。

戦闘機乗りとして日々空中戦を繰り返すカンナミは、新聞を丁寧に織り込んだり、マッチ棒を必ず二つに折ってから捨てたりと、プログラムされていないはずの癖をたまに出す。カンナミの仲間はそれらのことを「封印された癖」と呼ぶ。「自分が生まれる前に削除されるはずの昔の個体が持っていた癖が、完全には削除されずに残っているために、たまに不合理を起こして表に出てくる」らしい。普段は自分だけの命を生きているはずが、自分の生まれる前にこの世にあった命の欠片を自分の身体から感じてしまうのだ。

私たちは人間である。キルドレのように機械からではなく、母の身体の血の穴を通ってようやく誕生した。この命が自分の全てであり、後にも先にも自分はいない。当然、自分の身体に他人を感じることはない。ただ、どうだろうか。たまに、自分が自分と思えないこと、この場にいるはずにも関わらず落ち着けないことなど、地に足がつかない不安感を覚えることがあるだろう。この映画に出てくるキルドレ達は、皆が生まれてから殺されるまでずっと、この感覚と戦っているのだ。

(佐野 靜春)

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