『フェルメール展』

実はゾウの前にいる。
ゾウの前で、この文章を書いている。
東京は上野、『フェルメール展』の観覧券には入場時間が指定されているのだが、 その時間より少し早く着いてしまったから、動物園でヒマをつぶしている。
ゾウはごわごわと灰色の肌で、のそのそ歩いている。枯れ草のような産毛がうすく、生え散らかっている。
ああ、いつまでも観ていられるなあ。
正直フェルメール展に行くのがだりぃ。ギンナンもくせぇし。

さて、いま読者諸君は一行ぶんの空白行を一瞬に通りすぎただけだが、僕の方ではじつに2時間が経っている。『フェルメール展』を、観てきた。
諸君、ゾウなんてものは、どこででも観れる。
17世紀、オランダ。「光の魔術師」とも称される巨匠、ヨハネス・フェルメールの絵は世界に35作品しかない。なんとそのうち8つが、この上野に集まっている。と、掲示に書いてあった。ゾウ畜生なんぞよりも、とってもとっても、貴重な観覧機会なのである。

肝心の展覧の内容だが、注目すべきはやはり、『フェルメール・ルーム』と呼ばれるひとつの部屋である。しずかな群青色の壁紙に、ひかえめな暖色のスポット・ライト。なんとも荘厳な雰囲気のこの部屋に、8つのフェルメールの絵が一斉に飾られている。まさに豪華けんらん、アクシュミとまで言えるかもしれない。

僕には絵が分からない。たまに美術館には自分で行くから、分からないなりに好きなんだろうけど、それでも絵が分からない。今回の目玉となる作品、『牛乳を注ぐ女』を見ても、黄色の服と青のスカートの配色が“TSUTAYA”と同じだな、としか思わなかった。

それでもひとつ、フェルメールの描く「窓から差し込む光」の美しさには、うっかり感動してしまった。あんなに淡くて自然な光、神々しさ。とくに『手紙を書く婦人と召使い』の絵に描かれた窓ははっきりと白く輝いていて、光を通す空気の澄みわたりかたまで伝わってくるようだった。

『フェルメール展』には、他にもヨーロッパ絵画がキュレーションされてたくさん飾ってあるし、絵画にあまり詳しくない人のために、各作品の解説が音声と冊子で無料配布される。
通して何が言いたいのかと言えば、少なくともゾウよりかは『フェルメール展』が面白い見物であったということであり、だから諸君、ぜひ足を運ぶべきだゾウ。

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