象を撃つを読んで

象を撃つを読んで

海老澤秀美

 

この小説では、インドに住むイギリス人の役人である主人公が、自身が帝国主義の本質を理解するきっかけとなった体験として、「象を撃った」時のことを語っている。

主人公は、象を撃つべきではないと確信していたのにも関わらず、後ろで期待の目を向ける群衆に馬鹿にされないために、象を撃ち殺したのだ。

私はこの話を読んで、自分もこのような心境に心当たりがあると感じた。その時は何の時のことだか思い出せなかったが、今になって考えると、服屋で服を選んでいる時の心境に似たものがあると思える。

自分には形が合わないように感じたり、同じようなものを持っていたりなど、一人で冷静に考えれば買わないと決断するようなものも、店員さんにこんなに一緒に考えてもらったのに申し訳ないのではないか、買わないと言った途端あからさまに冷たくされるのではないかなど考えてしまい、自分の思うままに行動できなくなる時が私自身はある。

このように、周囲に左右される人間の心理が、この小説では鮮やかに表現されていた。現代の日本に生きる私とは掛け離れた世界観であるにも関わらず、自然に感情移入することができるのは、この表現力故だろう。

また、特筆すべきは川端康雄氏の日本語訳だ。私は川端氏の日本語訳で読んだが、本作は海外ものによくある「訳された感」が全くなく、まるで元から日本語で書かれたような印象を受けた。川端康雄氏は、『象を撃つ』のみならず他のオーウェルの作品も4冊の『オーウェル評論集』の中で訳しているので、まとめて読んでみてはいかがだろうか。

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