魔の山
『魔の山』は、1924年に出版されたトーマス・マンによる長編小説だ。
ドイツの教養小説の伝統に則った代表作のひとつである。
とても分厚いずっしりとした上下巻の本で、意気込んで読み進めていった。
私はこういったジャンルの本を手に取ることがあまりないので、新鮮な気持ちで読み進めていくことができた。
”サナトリウム”という隔離された場所で過ごすこととなったハンス・カストルプを中心に、
彼のまわりの人々やサナトリウムという特殊な環境での経験を通して、ハンスが成長し、7年後にこの山から下山することになるまでの物語となっている。
サナトリウムは肺結核患者のための治療施設。
この治療は、長い年月を必要とするため、日というより週。週より月、月より年。。といったじっくりとした時間の捉え方が重要になってくる。
この特殊な施設にいると、時の流れがとてもゆったりとしているのだ。
だがこういった現象は、なにもサナトリウムだけではなく私たちの環境でも起こりうることであると思う。
同じ環境にいると、いつしか人はその環境に慣れ、そこでの時間の過ぎ方が人生の時間の過ぎ方になっていってしまうと思う。
ゆったりとした環境に身をおろせば、実際よりも早く時が過ぎてしまうだろうし、
いそいそとした環境に身をおろせば、同じ時間を過ごしていても密度の濃い時間を過ごすことになるのだと思う。
与えられた時間は平等だが、どう過ごしていくのか、どんな時間を過ごすのか、それは運命的なものもあるとは思うが、選択していくことができると思う。
一つの環境に身をおろすことは安定していて良いのかもしれないが、思い切って環境を変えることで、時間感覚の鈍った人生の時計を調整することができるのかもしれない。
私はこの本を読みながら、そんなことを考えていた。