ミケランジェロと理想の身体
ミケランジェロと理想の身体
ミケランジェロ・ブロナローティはルネサンス期に活躍した彫刻家であり、建築や画家、詩人としてもその才能を発揮したルネサンスの三大巨匠としても数えられるまさに天才である。
今回の展示会は、自らを彫刻家としたミケランジェロの大理石彫刻の一つであり、日本初公開となるダヴィデ=アポロ像を始めとした数々の彫刻作品や、関連する壁画や絵画など様々な作品を通して時代によって変容した理想の身体を追求していく展示となっている。
彫刻作品を鑑賞するにあたり、面白いと感じる一つの要素として、欠損があったり未完である作品を想像力を用いて補完するというのがある。もちろんこれらは絵画を始めとする多くの芸術作品にも言える事だが、彫刻作品はその性質が故にこういった機会が多いのだ。
今回の展覧会でもそういった想像力を掻き立たせてくれる作品がいくつも存在した。私が印象に残った作品の一つはレスラーという作品だ。これは2人の男が取っ組み合ってるいる場面を表現した作品であるが、一方の男は左手のみを相手の右肘に残して欠損してしまっている。しかしそこにいたはずのもう1人の男を想像するのが私にとっては楽しいのだ。
また今回のメイン展示である、ダヴィデ=アポロ像は、未完がゆえにダヴィデなのか、アポロなのかがわからないという作品だ。未完であるにも関わらず調和された美しい身体表現と、その完成に対する期待が、未完である事でより価値を高めているとも思わせる。
最後に今回展示されているもう一方のミケランジェロの大理石彫刻作品である洗礼者ヨハネ像についても触れておきたい。この作品は、40%しか本来の像ではなく、修繕者によって再生され、ようやくその全体像が見えるようになった彫刻作品だ。しかし、私個人としては40%の自立しない破片が床に置いてあるほうが面白いのに、と思いながら併設されている説明ボードに添えられた修正される前の破片の写真を眺めていた。
今回の展示を通して、理想の身体とは定義されるものではなく、それを追求する行為に価値があると感じた。だから提示された身体美より想像力で補う必要のある身体に惹かれてしまうのかもしれない。