JIMI:栄光への軌跡
『JIMI:栄光への軌跡』
映画を見終わった私には、観る前と違った大きな変化があった。それは、ジミ・ヘンドリックスに対する印象だ。「ギターに火をつけ炎上させる」「歯で弦をかき鳴らす」など、私のジミに対する印象は、劇中でも度々使われていた「野性的」という言葉そのもの。それと同時に「暴力的」という印象すら抱いて、彼の音楽を聴くことを避けていた。だが、劇中で描かれていた彼自身は、それとは程遠いものであった。
物語は、あのローリング・ストーンズのギター、キース・リチャーズの恋人であるリンダ・キース(イモージェン・プーツ)がジミ・ヘンドリックス(アンドレ・ベンジャミン)を小さなクラブで見いだすシーンから始まる。その後、ジミは、チャス・チャンドラー(アンドリュー・バックリー)にプロモートされ、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスというグループを結成し、英国の人々を魅了していく。
私は映画を観るときに、登場人物の感情の変化に注目して観ることが多く、その変化をそれとなく表現できている映画に魅力を感じている。この映画も例外なく、ジミの心中の変化に注目しながら鑑賞した。だが、そこで私が観たのは、決して変わることのない彼の音楽に対する愛であった。
映画を見る前、彼のことを破壊衝動の発散手段として音楽を利用している人物だと思っていた私は、彼の音楽に対する愛と信念を目の当たりにして、申し訳ない気持ちになった。ライブの時、チューニングが合うまで絶対に演奏を始めなかったことや、黒人の地位を改善しようと近寄ってきた政治活動家の意見に流されなかったジミ・ヘンドリックス。自分の信念を貫き通すことは、時に周りからの反発を受ける。しかし、それに屈することなく自分の音楽を追求した彼は、「野性的」や「暴力的」という言葉では形容しきれない「人間力」を放っていた。
福田周平