「万引き家族」
是枝裕和監督の「万引き家族」は第71回カンヌ国際映画祭(2018)で最も素晴らしいとされるパルムドール賞を取得した。是枝監督自身パルムドールに関しては初めてのタイトルとなるが、彼の作品はこれまでもカンヌで評価されており、「そして父になる」(2013)が審査員賞、「誰も知らない」(2004)に柳楽優弥が男優賞を受賞している。今回の映画は是枝監督の集大成と言えるような作品であるような気がしてならない。彼が得意とする家族をテーマとした映画であり、また今回の映画は彼がドキュメンタリー出身であることや、映画「ワンダフルライフ」(1998)で見られたインタビュー形式の撮影手法など、彼のいままでの功績が詰まったような作品であると思った。
物語は血縁関係のない社会的弱者と言える、5人が家族を形成しており、働いてはいるもの、祖母の年金に頼ったり、タイトルにある万引きを行なって生活をしている。そこにネグレクトの被害者で新たに家族の一員として小さな女の子がやってくる。この女の子の登場シーンは特に印象的だ。家のそとに日常的に追いやられている様子で、彼女は塀のわずかな隙間から顔を覗かせる。そんな彼女を哀れんで誘拐するところから物語が進展するのだが、様々な社会問題に言及しながら家族になる上での必要条件に疑問を投げかける。血縁関係がなければ家族とは言えないのか。
この家族が行っている犯罪行為がバレてしまい、警察官のから取り調べを受けるシーンがあるのだが、その取り調べを行うインタビューアーがまたこの映画において素晴らしい役割を果たしている。彼らは正論を投げかける「産まないと母親になれない、あなたは子供を授かれなかったから子供を誘拐したのではないか」。確かにこれらの文言は社会的に正しいとされている。しかしでは彼らが悪い人間だったのか、責められるべき人間だったのか。私がこの家族に見たものは社会的なものさしでは測れないものだった。結果的に家族はその形式を保つことができなくなるのだが、この映画は最後に希望を残す。ラストシーン、誘拐された娘は実際の家庭に戻り、ネグレクトの被害を受ける。家を追い出されるが今回は、彼女は塀の隙間から顔を出すのではなく、台にのり塀の上から外を眺めるのだ。