The fact is I love you. (マジック・イン・ムーンライトコラム)

 「哲学ブーム」なんて言って、「ニーチェ」だとか、いわゆる古典的な哲学書の売れ行きが伸びている不安の時代・現代を生きる私たちのヒーロー、ウディ・アレン。彼の映画の主人公は、常に比較的高い確率で不安に苛まれていて、その悩みはとにかく哲学的。トルストイや、シェークスピアの言葉や、ハイゼンベルクの不確定性原理までもが持ち出されちゃうのだから。

 

 本作の主人公、名優・コリンファース演じる天才マジシャンのスタンリーも、聡明ゆえに(?)論理的で、皮肉屋。彼も、ウディ映画の主役の例にもれず、頭でっかちな「科学哲学の権化」と言った具合。だから、このマジック・イン・ムーンライトも、ウディ作品にありがちな、最後は、なんだか回りくどくて、よく言えば哲学的なセリフで終わるのだろうと思っていた。「それでも恋するバルセロナ(2008)」の「僕らはまた別の状況で出会えるかもしれないよ。人生なにがあるかわからないから」という、もしバビエルじゃない男性が言ったら『指詰めてやるからな』とか物騒なこと思っちゃうぐらいキザなセリフとか、「アニー・ホール(1977)」の「男女の関係とはサメのようなものだ。常に前進していないと死んでしまう。僕らの関係はサメの死体のようだ」という、まさにウディ脚本の真骨頂といえるような哲学的比喩表現だとか、そんな終わり方を本作でも想像、そして僅かな期待を抱いていたのに……!!哲学的で、論理的で、皮肉屋なスタンリーがエマストーン演じる美人ペテン占い師・ソフィに向けて言った最期の言葉がThe fact is I love you.だったなんて。それまでのウディ作品を考えても、劇中の二人の確執を考えても、あまりにシンプルで、ストレートで。それが私には衝撃的でこのセリフがどんな字幕で訳されていたかすら覚えていないぐらい。

 でも、もしもソフィを目の前にしたら、私もきっと同じセリフを口にしてしまう。なぜって、98分間、彼女は総じて美しかったから。ソフィは美しい、ゆえにThe fact is I love you.

ウディ映画で期待は常に裏切られる。またしても彼の術中にハマってしまった。

 

(フクシマユズノ)

 

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