『恋は最強の魔法』
『恋は最強の魔法』
映画「マジック・イン・ムーンライト」
福田周平
A子ちゃんとB子ちゃんは今年から大学生。お互い彼氏はできたことがなくて長年励まし合っていた。「彼氏なんていらない! 男なんて信じられないよ!」
一ヶ月後、「え!? B子まだ彼氏いないの? 早くつくった方がいいよ。恋をすると世界が違って見えるよ!」
こういう体験したことがある人、いるのでは? 今、僕はまさにB子ちゃん。裏切り者のA子は、スタンリー。
この映画は、有名なマジシャンのスタンリーが、占い師ソフィの一見超能力にすら見える不思議な力のタネ明かしを試みる。
開始早々、僕はスタンリーに引き込まれてしまった。正確には彼の台詞に。なんという皮肉の嵐。皮肉皮肉。ほぼ全ての台詞に皮肉が込められているのではないか。だけどもそれが心地よい。非現実的なものを絶対に認めず、自分は騙されまいとソフィに相対する姿勢。見ていて飽きない上に、妙に感情移入ができてしまった。「いいぞ、スタンリー! その調子でタネを明かしてしまえ!」と、上映中は完全にスタンリー目線。ソフィの魅力にすら騙されないスタンリーは、完全に僕の親友だった。親友の筈だったのだ。僕とスタンリーの関係に亀裂が入り始めたのは、映画の中盤、展望台で雨宿りをするあたりから。その後二人は、お互いの魅力に引かれ合い、遂には結婚をすることに。相容れない筈の二人を結びつけ、堅物のスタンリーを変えたのは、「恋」という最強の魔法だったのかもしれない。めでたしめでたし。
「恋という最強の魔法」、冗談じゃない。そのオチだけはやめてくれと思っていた所に綺麗に着地された。何が「花の香りを味わったのは初めてだ」じゃ。スタンリー、君はあれほど皮肉を言っていたのに、しかも結婚する予定だった女性もいたのに。正直言ってがっかりだよ。目を瞑ると今でも、「本当に人を好きになるって良いことだぜ?」とスタンリーがニヤッと笑いかけてくる。憎たらしい。