宅配のおじちゃん
わたしは今、宅配便を待っている。テレビを買ったのだ。17時までに来るらしい。ただいま16時44分51秒。引っ越してからの家は2階で外の音がよく聞こえるから、さっきから車の音を聞いてはチャイムの音を期待し、落胆している。いつもこうだ。引っ越す前にしても引っ越した後にしてもいつだって、宅配便はギリギリを攻めて来る。午前中指定にしたら大抵11時半過ぎに来るし、19時から21時のいちばん遅い時間指定にすると19時7分とか20時55分とかにやって来る。
引っ越す前、わたしの荷物はほとんどいつも、同じおじちゃんが持ってきてくれていた。3年ちょっと。何回あのおじちゃんと顔を合わせたのだろうか。特に東京に来てすぐの頃はネットで服を買いまくっていたので、おじちゃんはすぐに知らない人から顔見知りへと昇格した。「ありがとうございます」から「今日は暑いですね」という一言へ。いつにも増して笑顔のおじちゃんに訳を聞いたら、「昨日孫に会ってねえ」と嬉しそうに教えてくれたりするようにもなった。
おじちゃんは宅配業者としても凄腕で、「後1時間で家を出てしまうからできればそれまでに持って来て欲しい」というような、自己中極まりない私のお願いを全力で聞いてくれたりした。
引っ越すとき、引っ越し業者から事前に大量のダンボールが届いたのだが、それを届けてくれたのもおじちゃんだった。寂しそうに言われた『引っ越しちゃうんですね』が何だか気まずくて、『そうなんですよ』と苦笑いしか返せなかった。おじちゃんが扉を閉めた後、「『3年ちょっと、ありがとうございました』とかなんとか、そのくらい言えばよかったな」と少し後悔し、でもすぐに、「いや、宅配のおじちゃんにそこまで言うのもなんか変か」などと思ったりしてモヤモヤした気持ちになったのを覚えている。そして結局、それがおじちゃんとあった最後だ。
東京だからなのか、引っ越してからは毎回違う人が配達してくれる。業務的な笑顔しか向けてこない(それが当たり前なのだが)宅配業者に世話になるたび、ふとおじちゃんのことを思い出す。
おじちゃん元気かな。
さて、テレビを開封しよう。ちなみに到着は17時1分だった。1分、、、。