マジック・イン・ムーンライト

 

 

総合政策学部3年

小山峻

 

 

自身のマジックショーの観客を原始人呼ばわりし、バリ島を海の岩山とけなし、華やかに着飾ったヒロインを「男でないことはわかる」と評す。六歳の時点で優しい司祭から「君だけは地獄行きだ」と言われたひねくれ者スタンリーが、マジック・イン・ムーンライトの主人公である。彼は友人に頼まれて、女性霊能力者ソフィの力が本物かどうか確かめるために、地中海に臨むフランスの豪邸に赴く。設定や展開は仲間由紀恵主演のドラマシリーズ「TRICK」を彷彿とさせるが、マジック・イン・ムーンライトでは敵対関係であるマジシャンのスタンリーと霊能力者のソフィが、互いに惹かれあっていくという点が大きく異なる。

この作品の醍醐味は、ソフィに対する感情の変化を、スタンリーが全て皮肉で表現している点である。彼は息を吐くように、何度も自然に皮肉の言葉を挟むのだ。はじめはソフィを否定するだけに発せられていた皮肉は、次第に照れ隠しを含む愛ある皮肉に変わっていく。「マジックで象に当てる時くらいの光を当てれば、もっときれいになる」という台詞は、彼なりの好意のメッセージと言ってもよい。

皮肉なのは台詞だけではない。物語の中でスタンリーは、「マジックのタネを見破られないようにするには、同じマジックを何度も見せないことだ」と言う。しかし作中に一度だけ、同じマジックを二度するシーンがある。それはちょうどスタンリー自身にかけられていたトリックのタネが明らかになるシーンでもあるというのが、これまた皮肉が効いていて面白い。

隅々まで張り巡らされた皮肉と共にラブストーリーが進んでいくことで、観客はまるで炭酸飲料を飲んでいるような絶えず甘く痛快な気分になれる。言動共に徹底して練られた皮肉こそが、この映画における最大のマジックなのである。

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