コモリシャツ
COMOLIは2011年に小森啓二郎が立ち上げたブランドである。
「全ての洋服の原型は欧米から生まれ、ある目的の為に作られた物である」という考えの基、今の日本の環境に適応し今の日本人の体型と生活に合うシンプルで上質な日常着を追求する、というのがコンセプトだ。
コモリはシーズンごとのテーマの設定をしない。また音楽や文学からのインスピレーションを得た作品を展開したりもしない。価値観を転覆させるような啓発的な作品を作りもしない。毎シーズン、これと言って代わり映えもしない、上質ではあるが一見するとなんの世界観もないシンプルな服を作り続ける。
その姿勢の根底にあるのは、「よいものを、今ここにいる人へ」というドラスティックに研ぎ澄まされた一意の哲学である。服と人、それ以外はすべて余計であるとでも言うようにシンプルであり続ける。消費と流転の渦の中にある業界で、そのような位置に立ち続けることが容易ではないのは明らかだ。
毎シーズンリリースされる「コモリシャツ」にも、その思想は色濃く反映されている。小森氏は服作りで最も大切にしていることは何かという問いに「着ている人と服の間にある空気感」と答えているが、一度袖を通してみればその意味がわかる。
ゆとりを持ったシルエットは単に大きいのではなく、緻密に計算された独特の立体感を持っており、それは肌と服が触れる面積を小さくし服に包まれているような感覚を与える。まるで柔らかな風をはらんだように、着る者と服との間の「空気感」が生み出される。
そして140番手の糸を用い旧式の織機で織り上げられた生地が軽い着心地と滑らかな肌触りを実現する。汗をかいてもすぐに乾くような通気性のよさ、そして着物にも通じる「布をまとう」という発想は、まさに日本の環境、日本人の体型、それらを計算し尽くした上にある。
そのシャツは決して多くを語らないだろう。目を引く素敵なアイテムやファッション記号のようにあなたを外側から定義付けはしない。しかし必ずあなたを自身の喜びの中に立ち返らせる。そこは記号的なしがらみとは無縁の原初的な喜びの世界であり、軽く、シンプルで、心地よく、服と人というごく単純で密接な関係の他には何も存在していない。その親密で静かなる世界観は人々を魅了し、そして彼らは私的な喜びの実感から自身の立つ位置を知る。だからこそ彼らは毎朝ささやかな決意のようにそのシャツに袖を通すのだ。