絵画を知るということ
怖い絵展へ行った。単純に面白いというだけでなく非常に感慨深い展覧会となった。この展覧会は中野京子さんという学者が書かれた「怖い絵」という本の内容をもとに行われた展覧会である。名画には宗教、文化、社会的様々なバックグランドが存在し、そのバックグラウンドを踏まえながら鑑賞することで絵はより面白く、場合によっては非常に恐ろしく感じるものである。そのためその「怖い絵」という本は絵と絵の背景を文章で語るという形で絵画を紹介するといった内容だった。今回の展覧会も同様に絵とその絵の背景に隠される様々な社会的、文化的背景の説明板が丁寧に説明されていた。私は説明に期待して音声ガイドまで(お金を出して)借りた。
ギリシャ神話のサロメやオイディプス王に関係する絵から切り裂きジャックや世界大戦に関わる絵等その時代・種類・学派は様々だ。しかし非常に面白かった。絵画に込められた作者の想い、時代背景、昔の考え方がどのように絵に反映され、表現されているかがこと細かに説明されていてまず非常にためになった。そしてやはり絵の細部に目が行った。もともと神話や文化背景等の知識がなかったわけではなかったが、ここまで仔細にわかって見ていたことは少なかった。その意味で非常に勉強になったと思う。
私が得に好きだったのはナショナルギャラリーから持ってきていた「レディ・ジェーン・グレイの処刑」である。ヘンリー8世の姪として生まれたばかりに女王の座に就くことになってしまい、わずか9日在位した後にとらえられ、処刑された悲劇の女王の処刑現場を描いたものである。実は私はイギリスのナショナルギャラリーを訪れたことがある。この絵はその時見ていたはずなのだがどうにもその時は印象が薄かった。今回、歴史的背景をきちんと理解した上で絵画を見るとまるで印象が違った。暗闇の中に白く光る純白の王女、悲しむ召使、その悲しくも恐ろしい絵に圧倒されてしまったのだ。絵の横には意図して書いたのか「なんで。」という文字の表記。運命に逆らえなかった王女の悲痛な叫びのようだった。
絵の背景を知るということは絵を理解することを介助するだけでなく、絵の魅力を際立たせるものだ。そして画家への敬意の示し方でもあると思う。だからこれまでの絵画鑑賞の仕方を少々反省すると共に、新たに魅力を知るいいきっかけになったと思う。