私もふるわれたい
そういえばいつからレストラン街は地下に増えたのだろう。昭和と平成が入り混じる銀座の街で、ノーブランドのネクタイストアとマクドナルドが並ぶ商業施設の一階の一角にスパゲティレストラン「ジャポネ」があった。店内を囲う壁はなく、お店が突き出て、スタンドのようになっている。
平日の閉店間際に駆け込んだが、すでに3人程並んでいた。ほとんどが男性で、会社終わりのサラリーマンもいれば、この店の味を懐かしむかのようにパスタを頬張る中年のおじさまも。普通盛りとは思えないような量がカウンター卓の上に出されていく。これで600円とは安すぎる。回転率が早いため、優柔不断な私はメニューを何にするか迷っていた。カレースパゲティもいいけど、ナポリタンもいいなぁ。でもどうせだから。人気と言われるジャリコを選んでみた。
「何にしますか」「ジャリコで」
店主のような白髪混じりの男性が端っこの席に座るよう案内する。客が15人ほどぎゅうぎゅう詰めで座るようなカウンターの中で従業員は男性4人。ボンっと出されたスパゲティはこれまでに食べたことのない、懐かしい味わいだった(気がする)。従業員の細く長い腕が重そうな鉄のフライパンを片手でひょいひょいと振るう。細マッチョな男たちがイケメンと称され、愛される日本の世の中で、まさにその細く長い腕は細マッチョ。そして見ていると他の3人も皆腕が細マッチョ。その上なぜか皆毛がない。衛生面を考慮して剃っているのか(店は汚め)、謎は深いが、何にしたってスリスリしたら気持ち良さそうな腕だ。お姫様抱っこするには華奢すぎるかもしれないけど、でも、それでひょいと持ち上げてくれたらかっこよすぎだな〜とか思いながらパスタを食べていたら、パスタの味を忘れてしまった。しかし、妄想で満たされ幸せな夕飯だった。
いかん、いかん。