「『インデアン』カレー」
カレー、正式にはカレーライス。国民食として日本に普及した食べ物であるが、ご存知のようにその発祥はインドである。インドの香辛料を使った調理法の総称として名付けられた「カレー」という言葉は今や、日本ではカレーライスのことを指す単語とまでなっている。インドの「カレー」と日本の「カレー」は、全くもって別物の料理という印象を持っていた。
そんなものだから、インデアンカレーのメニューを見た時は少々拍子抜けした。なんだ、インデアンと名乗っているわりにはご飯にルウがかかっているじゃないかと、日本人向けの「カレー」を提供しているんじゃないかと。本場の味が食べられる、という期待をのっけから裏切られた気分になって、お店へ足を運んだ。
玉のれんをくぐって店内へ。席はU字型のカウンター席のみで、U字の中にご飯びつやらルウの鍋やらがあって、入り口で注文を受けてからすぐ提供できるようになっている。
注文から二分で、私の目の前に、メニューの写真の通りのカレーライスが現れた。一口、二口と食べていくと、なるほど、よく食べる日本のカレーライスとは全然違う。カプサイシンの単調で瞬間的な刺激ではなく、じわじわと長時間にわたって香辛料の刺激が口の中に広がる。食べ始めはその慣れない刺激に驚いたが、慣れてくると刺激の奥にある風味を感じることができるようになる。そしてその風味にまったく飽きがこないことに、私は驚いた。
日本のカレールウは、ご飯と一緒に食べることを前提とした味なのだ。味が濃すぎて、ルウ単体では多くの量は食べられない。ご飯を食べるためのおかずとしての役割、意味合いが、日本の「カレー」という単語にはある。
インデアンカレーで頂けるカレーのルウはその対極だ。ご飯がなくても食べていられる。香辛料の味わいを堪能するには、むしろ邪魔なくらいだ。茶碗2杯分ほどあった米を、少し残してしまった。それほど、インデアンカレーのルウは日本らしくなさすぎたのである。