代理課題 3月のライオン

将棋で起こりうる局面の数は、少なく見積もって10の220乗らしい。一局面での合法手(指すことのできる手)の平均と一局の平均手数によって求められる数字らしいので、当然実際の数はもっと多い。10の220乗、想像だにできない数字ではあるが、一応全宇宙の原子の総数は10の80乗個くらいらしい。余計に検討がつかない。
3月のライオンの主人公・桐山零は幼いころに事故で両親をなくし、棋士の幸田のもとに内弟子として引き取られるが幸田の実子、京子との軋轢などから家を出て、一人孤独に暮らしていた。そんな中ひょんな出会いから下町の三姉妹と祖父らの家に出入りするようになり、様々な人との出会いのなかで葛藤・成長していく。
私的名シーンは、島田開八段が宗谷名人を相手に闘う場面である。故郷の期待を背負い牛歩の歩みでやってきた島田とは対照的に、幼いころから天才として名を馳せ他の追随を許さない宗谷。結局島田は破れ、桐山とともに対局地を去る。桐山は島田の疲弊しきった横顔を見て、自らにこう語りかける。
「嵐の向こうにあるもの、それはただ更に激しいだけの嵐なのだ。『ならば、なぜ?』――その答えは決してこの横顔に問うてはならない。その答えはあの嵐の中で自らに問うしかないのだ」
先日、現名人の佐藤天彦がAIのponanzaに大差で負けた。そのことを受けてか、ある将棋AIの開発者は、史上最年少プロ棋士となった藤井聡太四段について「将来AIに奪われる仕事につかせて良いのか」などと発言した。
しかし、AIが人間より強くなったからといって、将棋の価値がなくなるものだろうか。
チェスの世界を見てみれば、20年以上前に世界チャンピオンがAIに破れ、その後もAIの圧倒的優位が広がり続けているが、チェスファンは世界中にいる。というより、そんなことを言い出したら原付きはウサインボルトよりも速い。
AIがどれだけ強くなろうとも、所詮人間が興味を抱くのは人間であり、81マスの宇宙、無数の可能性が遥かにおぼめく暗闇の中で次の一手を探し続ける者たちの美しさも、変わることはないだろう。

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