Moon Light 川中萌
第一回課題 ムーンライト
総合政策学部3年川中萌
※あえてアフリカ系アメリカ人を黒人、ニガ。アングロサクソン系アメリカ人を白人と表現していますが表現上のもので差別的な意図はありません。ご了承ください。
青白い残像がスクリーンに映った。うす暗い海の前に立つ少年がこちらを見ている。彼の光る眼はニガ特有の真っ黒な肌によく映える。
主人公の少年シャロンはアメリカの黒人の多い貧困地区に住む。父親はいない、母親は麻薬中毒。ひ弱な身体や、アフリカ系でもさらに黒い肌でクラスメイトからいじめられる黒人の少年。彼が出会った“まとも”なヤクの売人フアンは言う。月に照らされた黒人の肌はブルーに光るのだ、と。
場所はアメリカの貧困地域。そこにいる人々はほとんどが将来を望むことなく金を欲し、悪事に手を染め、まともな人生など歩めるはずもない場所だ。絶望の下生まれ、絶望に向かって生きる少年は、アメリカ社会において数は多いが、一度も目をかけられることのない人々のシンボルだ。この作品には白人は出てこず、すべて黒人によって物語られる。彼らを底辺に追いやり差別するものの“顔”はない。黒人は黒い肌というコンプレックスを持ちながらつまらない毎日の生活を生きる。発展した華やかな世界から隔離された底辺で黒人同士は差別し、憎しみ合う。これが現在のアメリカ社会なのだ。
それでも残酷に描写された底辺とは反対に、主人公の少年、シャロンは極丁寧に描かれていた。泣きすぎて、自分が水滴になってしまいそうなほど絶望的な少年時代を過ごし、愛した人に裏切られて成長した彼に訪れたのは安寧だったといえるのではないだろうか。底辺でも彼らは生きて、愛し、諦めても生きている。大げさなサクセスストーリーはないが、ただのハッピーエンドが少年には用意されていた。
ムーンライト(月の光)で青く輝くという現象は白人の日の光に輝く小麦色の肌と対象づけられているかのようだ。黒人は“黒い”がゆえに定められた人生を歩まねばならぬ。おとぎ話のような成功などそうはない。しかしそれでも、月の光のような弱いスポットライトに照らされ、青く輝くことはきっとできる。最後に映った幼少時のシャロンの姿、物言う目、そして青白い残像が網膜に焼き付いて離れない。