「ムーンライト」コラム課題『変わらないブラック』
黒人の少年、シャロンは性同一障害を患い、同級生からいじめられる日々を過ごす。母親はクスリに溺れ、家庭にさえ居場所がなかった。同じく黒人の男、フアンと出会い、可愛がられるようになる。しかし、フアンは母親にクスリを売る麻薬売人だという事実を知り、再び心を閉ざす。高校生になった頃にはフアンはこの世から居なくなっており、以後もシャロンを取り巻く環境は悪化するばかりであった。
人種、性同一障害、麻薬。世間に向けて作品を公開するのであれば、いずれも避けられがちな題材である。しかし、本作は正面からこれらの問題を突きつけることで、嫌味を一切感じさせない。
フアンが子どもの頃の思い出をシャロンに語るシーンがある。フアンは夜中に遊んでいたら、月の光に照らされた黒人特有の肌が青色に見えると老婆に言われたそうだ。黒人の肌は白人の肌よりも、純粋に光の色に染められるのだろうか。肌と同様、シャロン自身もまた、周りに流されるがまま年齢だけを重ねる。シャロン自身の色は一向に見えない。
いじめは過激な暴行となり、復讐としてシャロンはいじめの主犯を思いっきり椅子で叩く。シャロンは刑務所に送られ、そこで知り合ったツテで自身も麻薬売人になる。高校生の頃は貧弱な身体だったが、鍛えたことでいかつい風貌になった。三日月の夜もあれば、満月の夜もある。月日によって月はその姿を変えるが、実際の形は変わらない。シャロンも姿は変われど、相変わらず無口なままで、愛に飢えていた。
本作はサクセスストーリーでなければ、成長物語でもない。少年の人生を追うことで、数日間は引きずるであろう葛藤が観た人の脳裏に焼き付けられる。