代理課題
諸君。
私は酒と煙草が好きだ。
酒が好きな人は多いだろう。
仲のよい友達、仲良くなりたい人とじっくり飲み交わすのもいいし、誰だが誰だかわからなくなるような混沌の中で騒ぎ明かすのも楽しい。
先日など渋谷のドンキ前の木の根元で目覚めたが、それでも私は酒が好きである。
もっと好きなのは煙草だ。こちらは酒に比べて市民権を得ているとは言い難い。酒を嫌う人は少ないが、煙草の方は親の仇とばかりに嫌う人が大勢いる。
我らがSFCでも公式の喫煙場所はサブウェイの上の一箇所のみである。他人の健康を害す可能性がある以上、仕方がない。
しかし、ガラス張りのガス室のような喫煙席に押し込まれ、迫害されればされるほど、喫煙者たちの中に奇妙な連帯感が生まれる。
もう一つ所属している研究会では私は唯一の喫煙者である。バレないよう慎重に振舞っていたのだが、ある日、教授の誕生日ケーキのろうそくに火をつける手段がないとなった時にうっかり、「私、ライターもってますよ!」と高らかに掲げてしまった。あまりに愚かである。健康科学の研究会でこの失態はあまりにも痛い。
ところが、思わぬ収穫を得ることになる。ある日、授業の休み時間に教授にこっそり呼び出された。
何か失敗をしたのではないか、授業態度の怠慢さを指摘されるのではないかとドギマギして教室を出ると、教授はこっそり囁いた。
「ライター持ってる?」
全てを察した私は微笑んで教授に黄緑色のライターを差し出した。
煙草は時に人をつなぐ。
タイに行った時はタトゥー屋のお兄さんと拙い英語で話しながら、煙草を吸った。別れる時、「ジャパニーズシガレット」といってピースの箱を差し出すとタトゥーでいっぱいの手を胸に当て少女のように喜んだ。
振り向くと、早速親子で日本の煙草を吸ういかついお兄さんが見えた。
確かに煙草は健康に悪い。モラルが問われる。
それでも、私は煙草が好きだ。
起き抜けの一本。原稿を書きながら吸う一本。クイズ番組の決勝の前に吸う一本。
私の一日は白い煙と共に流れてゆく。