代理課題
「ジョゼと虎と魚たち」
わたしがこの映画に出会ったのは、劇中歌を担当している“くるり”が好きだったためであった。もちろん歌が映画をより一層引き立てていたのには間違いないが、映画のストーリーが観ている側をとてつもなく引き込んでくる。あらすじを簡単に言えばよくある苦いラブストーリー。やっとこれから一緒に過ごせると思いきや、季節が変わるようにその恋愛もいつの間にか終わりが来てしまう。それ以上もそれ以下もない、普通の大学生生活の中での恋愛。中には面白くない、普通だ、という感想が出てしまうのは、あまりに自分の学生生活のように重なって観てしまっているからかもしれない。特に女性はこの甘くて後味が苦い恋愛に共感しポロリと涙を零す人が多いだろうし、男性は恋愛を客観的に捉えて自分自身と共感するだろうと思った。
大学生である主人公・恒夫(妻夫木聡)は、優しい人柄だが意外にも女性経験が多い。良い人ではあるが、常にどこか女性の影があるような青年である。その恒夫が生まれつき足の不自由なジョゼ(池脇千鶴)に出会う。ジョゼは育った環境も特殊で、外の世界との関わりが今までほとんど無く、また性格も我が儘でクセが強かった。異なる世界を生きてきたような2人が、知らない場所を手探りで、不安を抱えながら先の希望に期待するように進んでいくかのように惹かれ合い恋に落ちていく。でも、進んでいくうちに道からそれていくように終わりを迎えていく。
タイトルの魚に触れるシーンは終盤にある。海で2人でデートした後、水族館に行くも休館しており、ジョゼは怒ってしまう。夜、見つけた「お魚の館」というラブホテルにジョゼが行きたいと言う。貝殻をかたどったベッドの上でジョゼがこのような言葉を零す。「昔、自分は深い深い海の底にいた。恒夫がいなくなったら、また迷子の貝殻のように、ひとりで海の底を転がり続けるようになる。」ジョゼの戸惑い、押し殺していた海底にあったような感情が、恒夫とふれあっていくうちに海面に近づき照らし出されていく描写は、終始純粋で綺麗であった。