『ヴェニスに死す』
『ヴェニスに死す』
〜 変態の種類 〜
僕は女性が好きです。おそらく世の男性の大半がそうだと思う。そして世の男性は須く変態であり、「女性が好きだ」という変態は、健全な変態であると僕は思っている。男子諸君、僕の突拍子もない告白に巻き込んでしまってすまない。しかし、想定外の変態に出会ってしまったのだ。
変態との出会いは一冊の本。トオマス・マンの「ヴェニスに死す」。僕が出会ってしまった想定外の変態は、この本の主人公グスタアフ・アッシェンバッハ。
アッシェンバッハは老作曲家。旅先に選んだヴェニスで恋に落ちる。この世のモノとは思えない美しさに虜になったアッシェンバッハの脳内は、まさに絶好調ヴェニスの恋。急上昇熱いハート。彼の頭は終日、タッジオのことで一杯。
「彼の顔は、最も高貴な時代にできたギリシャの彫像を思わせた。」
ちょっと待った! この一文を読んだ時点で、僕の頭の中を流れていた広瀬香美が停止。お気づきであろうか。そう、タッジオは「彼」。つまり男性。つまりアッシェンバッハとタッジオは「同性」。
同性愛を否定するつもりはありません。しかしどう考えてもアッシェンバッハはストーカーだ! 彼自身、自分の行動の奇妙さに気づいているにも関わらず、芸術家であることを役得に美少年を追い回している。役得を利用しようなんて、更にたちが悪いではないか。
結局、見惚れた相手に声をかけることもできず息絶えたアッシェンバッハ。会話すらできなかったことが変態性に拍車をかけている。
僕の基準では、彼を「健全な変態」だとは言いたくない。しかし「旅先で死ぬ変態」という変態の新ジャンルを開拓してくれた彼は、賞賛に値する。
この世にはおそらく、数多の変態が蔓延っている。しかし数ある変態の中でも僕は「旅先で死ぬ変態」にはなりたくないと思った。
福田周平