理想と現実のメリーゴランド

圧倒的個性。ぐわーっと心を掴まれる。本をよんだり、音楽をきいたり、映画を観たり、日常から抜けだす娯楽がこの世の中にはいっぱいあって、そんなちょっとした楽しみじゃ心が踊らなくなっていたわたしにとって、久しぶりの感覚だった。

以前のコラムでも書いたが、私は何か芸術に触れるとき、その場のその瞬間の空気を大切にしたいと考えている。たしかに、事前に作者や作品について勉強しておくことは、理解を深める手助けをしてくれるかもしれない。しかし同時に、その理解の幅を狭め先入観を持たせる可能性も孕んでいると思う。だから、わたしはまず自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、その後ではじめて解説や説明を読む。

そんなわたしにとって今回の展覧会のファーストインプレッションは「遊園地」だった。遊園地は非日常の世界でありながら、また来たいと思わせる親近感がある。架空のキャラクターやストーリーに憧れや夢を抱きながら、自分もがんばろうと現実世界との架け橋を見つける。具体と抽象の間をぐるぐると行ったり来たり…そんな感覚と同様の雰囲気がこのピエール・アレシンスキー展にもあった。

日本の書道やコミックに影響を受けたと言われる独特のスタイルでは、漫画のように小さな枠が並び、かといってそこに押し込められるような窮屈感はなく、むしろ書道のようなダイナミックな筆さばきに魅了される。ここでも、枠組みというまとまりと筆の躍動感の対比が心を刺激するのだ。

大学を卒業して、会社に入り、結婚して、わたしたちはふつうにふつうの生活を送っていくのだろうか。自分の力じゃどうにもならないこともあるかもしれないが、それでも自分の力でエネルギッシュに生きていきたい。そう強く決意して会場から一歩外に出た。

 

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