ピエール・アレシンスキー展
キャンバスと筆での表現の究極に近づいた人間、ピエール・アレシンスキー。90歳となった今尚精力的に活動する彼の作品は見る人を魅了する。作品一つ一つから彼のダイナミックさや、情熱がそのまま現れ出たような力強さと躍動感。さらに書道やコミック本からの影響で自由な筆遣いを手にし、独特で圧倒的な画風を確立した。その彼の作品は具体的、抽象的という言葉で表せるようなものではなく、分類不可とも言える。多様なアートがありふれている世界の中で、彼はシンプルに“筆で描く”ことにこだわり実践し続けている。そこには日本の書道が関係しているという。非常に興味深い。
従来の西洋絵画からの変化を求め、彼は様々な土地を訪れた。日本に滞在中、書道の世界にのめり込んでいった。文字は一切分からないが、書道家たちの筆を操る姿を目の当たりにし感銘を受け、「日本の書」という短編映画を制作した。これは高い評価をされ、日本の書を海外に紹介する画期的なものであった。彼は、小学校などの授業で行ってきた姿勢正しく落ち着いて筆を取る、というような書道も目にしたが、芸術に求めていたものはこのような静的なものではなく、動的な前衛の書道家の姿勢であった。書のルールにとらわれない身体全身と筆との攻防で勢いよく書き上げる芸術は、彼に間違いなく大きな刺激を与えた。身体と内面からの情熱が合わさって生み出される表現に加えて、身体全身の動きとの融合が追い求めていた変化だと確信した。
展示されている作品は、たしかにどれも身体全身を使わなければ完成出来ないであろうというものばかりである。その身体と筆を一体として大きなキャンバスに向き合う彼の熱い思いが、まるで全身に勢いよく流れてくるようだった。