『ピエール・アレシンスキー展』
『ピエール・アレシンスキー展』
〜「できた!」という感覚 〜
「できた!」何かを作っていてそれが完成したとき、僕らは心の中で、もしくは声に出してそう言う。この「できた!」には、何かしらの達成感というか「これでどうだ!」という感じが内包されている気がするわけだが、ピエール・アレシンスキーの作品は、僕の中の「できた!」感に衝撃を与えた。
渋谷のBunkamura(ぶんかむら)で開催されているピエール・アレシンスキー展。そこで彼の作品を初めて目の当たりにした、23歳芸術ペーペーの僕は思った。
「これは、できているのか?」と。なんかウニョウニョしてるし、墨とか使ってるし、はっきり言ってよくわからない。彼はどの段階で「できた!」と思い、作品を完成させたのだろうか。今までの僕の「できた!」感からしてみると明らかに規格外。一体彼は、何を基準に「できた!」と考え、作品を完成させたのだろう。その線引きの絶妙さというか、一般人の「できた!」感を越えているあたりが、芸術家たる所以なのだろうか。いずれにせよ、わからない。
だがどうやら、僕の言う「できた!」感は千差万別。彼の作品の前で手を合わせ、キリスト様に祈りを捧げるかの如く立ち尽くしている女性がいた。一つの版画の前でじっと立っている。ちょっと怖いくらいに。しかし、きっと彼女は作品を眺め、心の中でこう思っていたのだろう「できている…」と。
そんな女性を目の当たりにしてますます意味が分からなくなった僕は、絵に近づいてみたり遠くから見てみたり、とにかく色々試すことで「できている…」という感想を抱くべく頑張った。しかし、どうにもこうにも神の助言が下りてこない。
結果、展覧会という狭いスペースで華麗なるフットワークを披露した僕は、疲れた。
お腹の減った僕は帰り際、ドトールに寄って一番安いホットドックを食べた。その時、待ち望んだ瞬間が遂に訪れた。「このホットドック、できている…」。
福田周平