「ピエール・アレシンスキー展」コラム 『子どものまま』
展示を抜けた先にはアレシンスキーの作品をモチーフとしたギフトショップがあった。そこで売られていたTシャツに思わず目を奪われてしまった。職業シリーズと名付けられた作品群が複数プリントされている。職人ごとに何だか不思議で非人間的なデザインのキャラクターが版画によって描かれている作品だ。正直に言うと、実際に展示されている作品を見てもあまり感心しなかったのだが、Tシャツにプリントされていると何ともオシャレで可愛かった。幼い子どもが描いた絵をアート風にリメイクするというサービスをテレビで見たことがあるが、それにとても似通うものがある。
逆行してもう一度展示を見返したが、他の幾つかの絵の一部にも舌を伸ばした変な生き物など、コミカルなキャラクターが潜んでいた。地図や文書に描かれた作品もあり、まるで無邪気な子どもが落描きしたみたいだ。それらを描いたのが89歳のおじいちゃんだというギャップが萌える。
本人のインタビュー映像の中で、大人でありながら子どもらしい絵を描く方法を常に模索していると語られていた。アレシンスキーの絵にはまさしくその志が表れている。枠を描く手法も、幼い頃に好んで読んでいたコミックから発想を得ているそうだ。
子どもらしさを忘れない一方で、版画や油絵の具など、様々な手法に挑戦している他、キャンバスも多種多様な大きさや形を試みている。また、日本の書道に魅入られ、心で書く精神や偶発的な自由さを受け継いでいる。子どもらしくも、表現の幅は実に広い。
彼は左利きなのだが、当時は利き手を右利きに直される風習があった。その為、勉学は苦痛だったが、美術の時間に絵を描くときだけは左利きを許されたそうだ。絵に全てを捧げられたおかげか、彼の左手は子どもの頃から変わらずにいられたのかもしれない。