代理課題
『おやすみラフマニノフ』
「シチリスト」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。今人気沸騰中の作家、中村七里さんの愛読者の人たちを指している。あまり有名でない作家であったが、岬洋介の推理小説シリーズで一躍有名となった。
岬洋介とはピアニストで、彼の周囲で起きる音楽関連の事件を解決していく。各作品ごとに物語の主人公は異なるが、何かと関わる縁がある岬洋介がアドバイスや謎を解いていく。今回取り上げる「おやすみラフマニノフ」はシリーズの2作目にあたる。1作目の「さよならドビュッシー」を初めて読んだときはその面白さに引き込まれハマってしまったのは間違いないが、わたしはこの2作目でシチリストの仲間入りを果たしたと思う。何がわたしをさらにのめり込ませたか。題名から想像つくように音楽の話が随所出てくるが、その音楽に対する愛、著者の音楽好き、クラシック好きがとてつもなく伝わってきた。わたしもクラシックが好きなので共感し易かったのかもしれない。クラシック素人の人からみると読み飛ばしてしまってもしょうがないような、ちょっと長めな描写が多いかもしれないが、是非そこは音楽をネットで検索するなりして音源と照らし合わせて読んでもらいたい。さらに欲を言えば、音源だけでなく動画などで演奏者の表情や佇まいも目で感じ取ってほしい。著者の愛の深さが本当に分かる。
作品は音大が舞台で、そこである日時価2億円のチェロ・ストラディバリウスが盗まれてしまう。事件の内容としては大どんでん返しというようなものではない。犯人の予想も序盤でついてしまうかもしれない。でも、犯人の動機が最後まで見えてこない。なんとも言えない悲しい気持ちになる最後であったが、登場人物の台詞一つ一つが重く響いてくるもので考えさせられる。一読してもらいたい作品の一つである。