最後に「人としての尊厳」を保ったのは シャトーブリアンからの手紙
1941年、フランスのシャトーブリアン郡ショワゼル収容所に収容されていた政治犯・共産党員らは、ナチス将校暗殺の報復のための銃殺者リストに入れられた。しかし罪状はそこまで大きな問題ではなかった。人数が足りなければ、「適当に」そのリストに加えられた。
収容所最年少の17歳のギィ・モケもこのリストに入れられた。2007年、就任直後のサルコジ大統領は彼らが銃殺された10月22日に全国の高校生全員に「若きレジスタンスの愛国者」であるギィ・モケの別れの手紙を朗読することを提案し、多くの反対を受け頓挫したことで、一度注目を浴びている。しかしながら、この映画では彼だけが主人公ではない。フォーカスされることはあれど、端的に、叙事的に描かれる。
17歳の、占領反対のビラをまいただけの少年が、恋も実らせないままに、銃殺される!
もっともっと情緒的に、悲劇性を掻き立てて、ヒューマンドラマに仕立て上げられたはずである。しかし、この作品は91分でさっくりと、無駄な装飾も無く描く。そこが良い。歴史的事実を俯瞰的に描くことで、多くの人が犠牲となった背景とその構造を描くことが可能となっている。顔も見せないヒトラーの命令を電話で受け、リストを作らせ、銃殺する。すべてのステップで反対したがった人がいた。しかし、誰も抗えなかった。それに対し、見せしめとして殺されるフランス人たちの足どりの確かさ。
この描き方は、ドイツに生まれ17歳からフランスで学んだフォルカー・シュレンドルフ監督のこの経歴と、『ブリキの太鼓(1979)』のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞によって証明された「原作」の映画化能力によるものであろう。エルンスト・ユンガーの記録「人質の問題について」や警察記録、作家ハインリヒ・ベルの小説をもとに映画化された『シャトーブリアンからの手紙』であるが、監督は2011年に史実が舞台化され話題になった1944年のヒトラーによるパリ破壊命令とそれへの抵抗を描いた『DIPLOMACY』を2014年に制作した。またも第二次世界大戦のフランスとドイツ、そしてスウェーデン公使を描く最新作は2015年日本公開である。期待がかかる。