ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ

結局、小説の方が奇

 

総合3年 沖野のぞみ

 

「天才編集者パーキンズが金の卵作家トマス・ウルフに目をかけ、熱い友情を育みながら二人三脚でベストセラー作品を世に送り出す。」なんと心踊らされる内容だろう。休日にも関わらず6時半起きし、ウキウキとシアターへと向かった。だが、その期待は大きく裏切られることになってしまった。

まるで奇跡の物語のようにプロモーションされているが、本当にそうだろうか。家族より仕事をとるとか、仕事仲間と言い合いになるとか、「よくある話でしょ?」という感想以外抱くことができなかった。それに、マックスが作中でしていた編集者らしいことといえば「cutしろ」とトムに伝えることくらい。人間的な心の広さはともかくとして、どこらへんがカリスマなのかがイマイチわからない。トムはとにかくたくさん文章を書く変人だし、アリーンはとにかく重い女。スコットは気の利いたアドバイスひとつもできやしない。どの登場人物にも魅力を感じることができないのだ。

だが私が失望した気になってしまったのは、この作品そのもののせいではないように思う。「現実は小説より奇なり」という言葉があるが、結局私が映画に求めているのは、創作された美しい奇なのだということに気づかされてしまったからだ。私が見たかったのは、完璧な編集者が、完璧な未完の大器作家に出会い、完璧な苦労を重ねながら作品を世に送り出す、という作られた物語でしかなかったのだ。最初からドキュメンタリーだと割り切っていたら共感できる余地くらいありそうなものであったが、映画仕立てにしたことによって、完璧さへの期待が生まれてしまった。

私たちが普段映画やテレビで目にするヒーローのようなかっこいい人なんて滅多にいるものじゃない。本作品で出て来たように、気まぐれで、不完全だ。だからこそ私たちは映画や小説などの美しい世界に思いを馳せて来た。映画と現実の世界にはこんなにも大きな美しさの差があるのだということを、私はスクリーンを前にして突きつけられてしまった。

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