「ベストセラー」コラム 『二人三脚』
地を力強く踏みしめた。多くの人が往き交い、強い雨が降っている。いつか誰かが必ず認めてくれるはずだと言わんばかりに、トムの脚が激しい水飛沫を上げる。必死に書き上げた作品を否定され続けた悔しさの波紋が広がった。
マックスに認められ、いざ編集作業へと入ったトムの作品は次々と削られてゆく。駅の壁に、冷蔵庫の狭いスペースなど、場所を問わず編集作業に勤しんだ。何かを捻り出すように脚をくねらせては、納得がいかず地団駄を踏む。トムの苦悩が観ているコチラにも響いてくる。
マックスは真面目で無感情な男だった。娘たちに冗談を言われても淡白な笑顔でやり過ごすだけであり、常に冷静であった。そんなマックスをトムはバーへ誘い、数少ない好きな曲を演奏して貰った。バーの演奏家たちは曲を即興で自己解釈し、アドリブで弾いてみせた。自分にはない型破りなメロディーに思わずマックスも笑みが溢れ、軽快なステップを踏んだ。
旅行から帰国したトムを出迎え、トムが街へ来て初めに泊まっていたというアパートへ訪れた。廃墟と化した部屋へ入ろうにも鍵がかかっており、入ることが出来なかった。するとマックスは窓を蹴り壊し、鍵を外せるようにした。トムと出逢う以前のマックスであればそのような粗暴な行為はしなかっただろう。マックスはトムを導く編集者ではあるが、マックスもまた、欠けている要素をトムに満たされていた。
マックスと衝突し、トムは独り海辺に来ていた。打ち寄せる波に靴を浸されながら、砂浜を重く踏みしめた。その直後に病で倒れ、命が尽きる前にトムは手紙を綴り、想いを伝えた。死に直面してようやくトムは正直になれたとも受け取れるが、すでに砂浜を踏んだときマックスに謝ろうと決心していたのではないだろうか。そんなことを考えさせられる重みのある踏み込みであった。
ともに影響し合い、喜怒哀楽が引き出された。死後もマックスの片脚にはトムの豊かさが宿り続けるのだろう。