異邦人 代理課題
色が教えてくれる。
白い上っ張り、大好きなミルクコーヒー、陽を浴びた褐色の肌、海。第一部を通して、彼の目に映る鮮やかで、輝きに満ちた世界に魅了される。主人公のムルソーは一般的に見れば、空虚で荒んだ、淀んだ人物のように感じるかもしれない。母の死には涙を見せず、翌日には、女性と親密な関係になってしまう。おまけに、女性のことを「愛せない」という。そんな主人公とは対照的というべきか。緻密で色彩豊かな世界がムルソーの目を通して、端的に描き出される。
この本を読んだとき、私は5年くらい前に亡くした祖父のことを思いだした。突然の不遇な事故で亡くなり、私にとって初めての親しい人の死だった。だから、病院に行ったときも、すでに死後硬直が始まっている状態で、あと20年は平気で生きていただろうに、と私は悲しみのせいで涙が止まらないと信じていた。だが、葬式中、従兄弟と出会うと、祖父の死を忘れたかのように遊び、またお経がはじまれば涙が止まらなくなった。今思い起こせば滑稽だった。コロコロと感情が変わる。あの頃のことを振り返ったとき、母に衝撃的なことを言われたことがある。「あなたはおじい様の死に驚いていたのよね」そのとき、ものすごくぴたりと求めていた答えと出会えたと感じたと同時に、すべての身包みを剥がされたような心持ちになった。私は、悲しんでなどいなかったのかもしれない。ただ、死には悲しみという感情を自動的に結びつけようとしていただけなのだ。それは、与えられた知恵なのか、私にもよくわからない。
それゆえか、私にとって、ムルソーこそが透き通った玉のようにうつる。だからこそ、ムルソーも様々な美しい景色を純に、受け止めることができたのではないだろうか。晴れているから嬉しいとか、友達が笑っているから楽しいとか、そんな風に自動的に感情をつなげず、すべてを受け止め、自分の感情に嘘偽ることない。そんな彼の透明さを色が教えてくれる。