異邦人
主人公・ムルソーはどういう人間だろう。
ママンが死んでも涙を流さず、特に感情をしめさない冷酷な人間なのだろうか。でもいい歳の大人になっても、“お母さん”でも無く、“おふくろ”でもなく、“ママン”と呼んでいるので少なからず母親は彼の中では絶対的な存在であったのだろうか。女で一つで育てられ、「人はどんなことにも慣れる」「一人で自立して生きていく」というママンの言葉を信じて生きてきた。そんな言葉が彼の中に常にあったからどんな出来事(この物語の中だとママンの死や自身の死刑宣告)抗うことなく順応していけたのだろう。
でも全く感情をしめさない訳ではない。仕事や海では“解放感”、女性に対して“欲”があることが分かる。でもどこか冷めているようだ。彼女に対しては「結婚したいならしよう、本当の事を言うと愛してないと思うけど。」と伝える。こんな男性絶対嫌だ!とわたしは思ったが、こんな変わってるダメ男を好きになってしまう気持ちも分かってしまった。
ここまでだとムルソーは冷たい無感情人間、の印象となっているが、ただの冷たい人間ではなくて冷静なアナリストのような人間ではとわたしは思った。何事にも理由があって、その事象を分析し判断し、次の行動を考える。物語も彼の淡々とした考えや分析が並べられ進んでいく。状況の分析と同様に自分自身の感情に対しても淡々として述べているので冷たく見える。アラビア人を殺した時の感情は物語を何度か読み返してみたが、わたしは分からなかった。「暑かった」「眩しかった」ということだけしか分からなかった。そして殺人を犯した事をきっかけにママンの死を悲しまなかったことで死刑宣告をされるが、その時も全く殺人について考えていない。アナリストのような彼なのに、その殺人について、アラビア人に対しては何も考えていない。人間の行動には理由があると思うが、この殺人については理由が思いつかない。「太陽が眩しかったから」その場で彼がこじつけた最後の自分の理由づけであった。