『 シャッター・チャンス 』
『デトロイト美術館展』
〜 シャッター・チャンス 〜
月曜日と火曜日は、館内での写真撮影が許可されているらしい。チケット売り場でそのことを知ったわけだが、美術館で写真を撮るという経験をしたことがなかった僕は、ワクワクしつつも「どのタイミングでシャッターを切るか」ということで頭が一杯になってしまった。
月曜日のお昼時にも関わらず、館内はたくさんの人で溢れている。もっと空いていると思っていた。想定外の連続。なかなか絵に近づけない上に、いたるところでシャッターの音が。しかしせっかく来たわけだ、何かしら決定的な瞬間を捉えなければ帰れないではないか。
しかし考えてみれば、動かない絵画に「決定的な瞬間」などあるわけない気がしてくる。というより、決定的な瞬間は既に作品で描かれているという話では!? じゃあどうすればいいんだ!? 写真はいつ撮ればいいんだ!?
そんなことを考えているうちに、だんだんと疲れてきた。最初のブースで観賞の方向性を見失ってしまった僕は、今回の目玉作品の一つであろう、ゴッホの「麦わら帽をかぶった自画像」だけでも写真に収めるべく、残された力を振り絞り進んでいく。
思っていたよりも序盤に “やつ” はいた。作品の放つオーラに思わず脚が止まった。と、言いたいところであったが、僕が気づいたきっかけは絵の前に群がる「人の量」だった。
最悪だ。あれだけの人々を掻き分け、絵の前に陣取る力なんぞ残っていない。来日したジョニー・デップを成田空港で迎えるファンの図が頭に浮かぶ。ジョニー・デップさながらの「ゴッホの自画像」が妙に得意げな顔をして見えた。なんとなくその得意げな顔に腹が立った僕は、「絶対に写真を撮ってたまるか」とその場をあとにしたのであった。
美術館に絵を観に行ったはずが、「いつシャッターを切るか」ということしか考えられなかった。不覚である。なんとなく満たされない心を埋めるべく、館内を出てすぐ見えるスカイツリーを写真に収め、帰路についた。
福田周平