築地ワンダーランド

 

総合3年 沖野のぞみ

 

中央卸売市場内に足を踏み入れると、人の活気と共に、魚の生臭い匂いがブワッとやってきた。案内されるがままに市場の中心部を目指すが、集中していないと、猛スピードで行き交うターレにうっかり轢かれそうになってしまう。筋骨隆々で強面の男たちは、初対面にも関わらず、ジョークかどうかわからないエッジの効いた毒舌をべらんめぇ調に飛ばしまくる。いかにも一見さんお断りという感じだった。

 

どうせ私たち素人には、余った部分を最高と言って渡しているのだろうと疑っていた。だから、劇中で仲卸人が「気に入らないマグロはお客さんには渡さない」と言っていたのに驚いた。「築地ワンダーランド」は、1年4ヶ月もの長期取材を経て作られた多角的なドキュメンタリーだ。たった数時間訪れただけで築地をわかった気になっていた私は、真には何も理解していなかったのだと知る。

 

彼らは、決して損得勘定だけで魚を生業にしているわけではなかった。豊かな海に育まれた魚、命がけで釣ってくる漁師、夜通しで運送してくる運転手、全てに対してのリスペクトがある。彼らの仕事が、日本の食文化を守っていくことだと知っている。だからこそ、その中継地点として美味しいお魚を消費者に届けることに喜び、全身全霊をかけられるのだ。素人相手だからと言って中途半端な仕事をすることなど、彼らのプライドが許すはずがなかった。市場見学の際に強面で無愛想だと思っていた男たちの顔は、仕事に対する真摯さと魚の聖地築地にいることの緊張が表れた真剣さだった。

 

私がこれまで何気なく口にしていた魚は、こんなにも多くの情熱を礎にして運ばれて来ていたのかと素直に驚く。築地の80年の歴史を思うと、食卓に上がってくる魚たちに畏敬の念さえ湧いてくるようになった。今後の私の「いただきます」に革新が起こることは間違いなさそうだ。

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