心のカケラ

なぜ白人の彼女が黒人の歌であるはずのブルースを歌っているのだろう?レビューを読んだり予告編を観て感じていた違和感は、映画が始まって間もなくすると消えていた。

今なお多くのアーティストに影響を与えつづけているジャニス・ジョプリンは、1943年アメリカのテキサスに生まれた。彼女が少女だった1960年代当時、アメリカ全土の中でもテキサスは特に保守的で白人至上主義を謳い、黒人を排除しようとする動きが盛んであった。そんな土地柄の中で育った彼女もまた、学校に馴染めずひどい虐めを受け周囲から孤立していた。彼女には黒人たちの姿が自分と重なってみえたのだろう。自分の心をわかってくれるのは家で見るテレビでもない。ラジオから流れてくる音楽でもない。黒人たち、それも最低な扱いをされどん底にいる女性たちが歌うブルースだったのだ。高校を卒業し大学を転々とした彼女は逃げるようにサンフランシスコへと拠点を移す。人種も何も関係なく、好きな格好をして好きなことをして…。この地で彼女はバンドを結成し歌にのめり込んでいく。彼女の歌い方はまるで、本当に自分の心の欠片を一人ひとりに惜しみなく与えていくようなそんな激しくも温かい歌い方だった。

彼女のアーティストとしての活動期間はたったの4年間であった。彼女にとって、歌うこととは心をちぎること。まさに全身全霊で歌っていたのだからこの短い音楽人生にもうなづける。

どこに進んでいるのかわからない列車の描写が染みる。私は今の自分に満足しているだろうか?ジャニスはたったの27年間という短い生涯だったけれど、間違いなく自分の足で自分の生きる道を歩んでいた。このままレールの上を真っ直ぐに進んでいくそんな人生でいいの?ジャニスの声が聞こえてきた。映画を観る前に食べたタイ料理の香辛料の味が急にまた口の中に広がっていくのを感じた。

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