「杉本博司ロスト・ヒューマン」展
語るのは誰か
よくわからん。入って10秒で思った。まあ、「人類と文明の終焉」という壮大で抽象的なテーマを掲げているのだから、当たり前と言えば当たり前の感想なのかもしれないが….
「杉本博司ロスト・ヒューマン」展は東京都写真美術館のリニューアル・オープンと総合開館20周年を記念した現在開催中の展覧会だ。「写真」美術館というくらいだから、写真展なのだろうと思って足を運ぶと、その期待は大いに裏切られる。むしろ「モノ」展。歴史の遺物たちが何とも言えぬ空気を漂わせながら、ひっそりと佇んでいる。過去のモノなのに感じるリアリティさ、無言なのに感じる魂が絶妙に気持ち悪い。この人は一体何を伝えたいの…?そう考えずにはいられなくなる。
「写真は死んだリアリティーを残像として定着する。しかし、その残像を次々と見せられると、死んだリアリティーが生き返ったように見える。それが映画なのだ。」と、杉本氏は本展のカタログに著している。写真はシャッターを切ったその瞬間から過去の「モノ」になり、そしてそれを見る人に様々な解釈を与える。写真作品を中心に活動してきた彼だからこそ、今回敢えて「モノ」にストーリーを語らせたのだろうか。しかし、本展は過去を振り返るだけでは終わらない。そう、未来だ。過去は「過去」の世界に留まっていない。もし、過去のある一瞬が少しでも違っていたら現在の姿は私たちがいま生きている「現在」とは違うかもしれない。つまり、私たちの当たり前の日常は、案外脆く簡単に崩壊してしまう危険性を孕んでいるとうことだ。
写真を撮るという行為はあらゆる事象のある側面を部分的に切り取ることでもある。私たちが生きている世界も本当にその「世界」だけなのか、自分の恣意によって切り取ってはいないか。彼は過去現在未来のつながりを伝えたかったのかもしれない。帰る頃にはほんの少しだけよくわからん気持ちが消えていた。