『杉本博司 ロスト・ヒューマン』

「白黒はズルい」

東京都写真美術館のホームページを一緒に見ていた友人が何気なく発した言葉、その言葉に僕も同意した。洋服だってそうだろう。モノトーンでまとめておけば何とかなる気がする。その「手軽さ」というか「何となくオシャレに見える感」に友人も僕も「ズルい」と感じたのだ。ロスト・ヒューマンから浮かび上がる白と黒の間にも「ズルさ」が隠れているに違いない。そんな斜に構えた姿勢で展覧会に行った。

恵比寿ガーデンプレイスのオシャレさと、ロスト・ヒューマンというテーマから想像していた「深刻さ」のようなものに胃もたれしながらも、道順に従って作品を巡る。一つ一つの作品が統一した世界観を創り上げ、終焉を迎えた世界の中を歩き回っているような感覚に陥る。想像以上に「ズシン」と響く作品のエネルギーに、思わず着けていたマスクを外した。息苦しかったわけではなかったと思う。嗅覚にまで頼らなければ、作品の中に広がる世界に耐えられないような気がしたからかもしれない。

館内から無事に出られたことに一安心していたら、鑑賞中ずっと手に持っていたチケットが手汗で湿っていることに気づいた。一見白黒に見える杉本博司の写真の中には、「色」を使った説明など必要のない、説明不要の世界が広がっていた。

帰りの電車で窓ガラスに写ったのは、作品の数々に圧倒され続け脱力しきった「手軽なモノトーン姿」の自分だった。

 

福田周平

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