東京国立博物館「日本国宝展」
空間デザインが物語るストーリー
面白い国宝展とは何か、を示されたようである。
「日本国宝展」はその名の通り、全国宝1090件のうち約120件を集めた贅沢な展覧会であり、初めて一堂に会する作品や正倉院の宝物庫の作品が展示されている…等々が話題であると言うが、「非オタ」にはピンとこない。しかし、教科書で見た作品が淡々と並べられていそうな「国宝展」という言葉が持つイメージを打破する展示によって、なぜこれらの作品が国宝に認定されたのかを肌で感じ取れた、と言えば、この展覧会の面白さも少しは伝わるだろうか。
本展覧会は「祈り」というテーマで構成されている。仏、神、体系化以前のカミへの信仰をあらわした遺産を、ただのモノとしてではなく、物語や人々の想いを持った宝として展示している。人間ではなく神や仏に見せることを目的として当時の技術の粋を尽くして制作された大小の作品群は、まるでお堂や御所、遺跡の中で作品を見ていると錯覚させるかのように観覧者を囲んでいた。この空間を創り上げた空間デザイナーの池田英雄氏は、日本美術の展覧会としては異例の動員を記録した「国宝 阿修羅展」でも空間デザインを務めた人物。国宝の展示において氏が意識しているという作品の荘厳さと繊細さを十二分に観覧者に伝える空間が出来上がっている。
年代や背景ごとに作品をまとめて展示し、ストーリーを感じさせる空間によって、様々な形の信仰や宗教が絡み合っている日本がどう出来上がっていったのかに自然と思考が傾く。国宝として指定された作品の技術面だけではなく、歴史的に持つ意義を伝える展示なのだ。色褪せた作品も、その歴史と人々の信仰心を感じさせる作品として見る人の目に入ってくるのは、本展覧会の丁寧なディレクションによるものであり、そこに難解さは無い。これならば、「俺、オタクじゃねーし」という若い人であっても、上野公園の端まで足を伸ばしたことを後悔はしないだろう。